いとま chocolate & ice cream~北杜市台ヶ原に漂うカカオの香り。“いとま”を届けるチョコレート店
甲州街道の宿場町に生まれた、小さなクラフトチョコレート店
北杜市白州町台ヶ原宿。
江戸時代に甲州街道の宿場町として栄えた歴史ある通りに、2025年10月、カカオの香りがふわっと漂う小さなクラフトチョコレート店「いとま chocolate & ice cream」がオープンしました。店内では、クラフトチョコレートブランド「いとま」のチョコレートのほか、カカオを贅沢に使ったホットチョコレートやアイスクリームを楽しむことができます。
古民家をリノベーションした店内は、かつてこの場所で暮らしていた人の営みが感じられるよう、既存の柱や塗り壁を活かしながら、木の温もりを感じる空間に仕上げられています。店舗に併設されたチョコレート工房との仕切りは、あえて半スケルトンにすることで、チョコレートが生まれる空気感や、ものづくりの気配を店内から感じられるようになっています。
「また頑張ろう」と思えるチョコレートを
「いとま chocolate & ice cream」オーナー・鬼塚 創さんは、北杜市白州出身。高校卒業を機にファッションの世界へ進み、大学卒業後は兵庫の織物産地でクラフトアパレルメーカーを立ち上げ、ディレクターとしてブランド運営に携わってきました。しかし、「大量生産・大量消費」というファッション業界のスピードの中で、少しずつ心と身体が疲弊していったといいます。
「作っては売る。そのサイクルを回し続ける毎日で、気づけば自分の好きなものにも興味が持てなくなっていました。療養のため、一度白州に戻ってきたんです。少しずつ元気を取り戻し、再びフリーでデザインの仕事を始めたものの、また同じことの繰り返しになるのではないか、という感覚がどこかに残っていました。」
そんな時に思い出したのが、かつて出張のたびに訪れていた東京のクラフトチョコレート専門店でした。
「チョコレートって、例えば仕事で疲れているときに少し食べるだけでも、心がほどける瞬間があると思うんです。自分のように、壊れてしまったり、一度立ち止まってしまった人が、また頑張ろうと思える。そんなチョコレートを作りたいと思ったのが最初のきっかけでした。ブランド名の“いとま”には、『ゆとり』や『休息』という意味が込められています。忙しい毎日の中で、ほんの数秒でも、自分を取り戻せる時間になればと思っています。」
理想の味を目指し、約2年間、独学で試作を重ねてきた鬼塚さん。2025年10月、現在の場所へ移転し、生産量を増やすとともに、カフェ営業もスタートしました。
「bean to bar」という、ものづくり
「いとま」のチョコレートは、世界中から厳選したスペシャリティカカオを使用し、焙煎から成形までの工程をすべて自分たちで行う「Bean to bar」スタイル。使用するのは、大量生産向けのバルクカカオではなく、香りや味わいを重視して栽培されたスペシャリティカカオです。ブレンドは行わず、単一品種で仕上げることで、カカオ本来の個性を引き出しています。
カカオ豆の個性を最大限に活かすため、焙煎時間は1分単位で調整。さらに、石臼で行う撹拌工程も、カカオ豆の種類に合わせて12時間から72時間まで細かく変えながら、舌触りと香りのバランスを探っていきます。
乳化剤や香料を使わず、カカオ豆と砂糖だけで仕上げるからこそ、素材そのものの味わいがダイレクトに伝わる「いとま」のチョコレート。爽やかな香りを持つ豆には、さとうきびの青い香りが残る砂糖を。コク深い豆には黒糖を合わせるなど、砂糖の種類まで細かく使い分けています。
例えば、「ベネズエラ70%チョコレート」は、赤ワインのような渋みと黒糖の深いコクが特徴。長時間焙煎によって酸味を抑えながら、カカオ本来の骨太な味わいを引き出しています。口に入れると、穏やかな酸味とともに香りがゆっくりと広がり、長い余韻を残します。
いとまのチョコレートを贅沢に使った、ホットチョコレートやアイスクリーム
カフェでは、「いとま」のクラフトチョコレートを贅沢に使ったメニューも楽しめます。
「まずはこれを飲んでほしい」と鬼塚さんが出してくれたのは、スペシャリティカカオを贅沢に使用したホットチョコレート。トロピカルフルーツを思わせる酸味が特徴の「タンザニア70%」を使用した一杯は、ホットミルクの柔らかな甘みの中に、カカオの個性がしっかりと感じられます。ここまで贅沢にカカオを使ったホットチョコレートは珍しく、添え付けのカリッとしたチュロスを合わせながら味わうのもおすすめ。チョコレート好きにはぜひ味わってほしい一品です。
アイスは常時5種類ほどが並びます。タンザニア産カカオのトロピカルな酸味を活かしたものや、ハイチ産カカオを使用した、まるでチョコレートそのもののような濃厚なアイスなど、個性豊かなラインナップが揃います。
そのほか、酸味が特徴的なインドカカオ70%と、同じ台ヶ原で古くから酒造りを行う七賢の酒粕を合わせた、大人な味わいのアイスも。季節によって変化するフレーバーを楽しめるのも魅力です。
地域に根ざす、クラフトチョコレート
作り手の想いや背景まで含めて、プロダクトを直接届けられる空間をつくりたい。そんな思いでスタートした「いとま」ですが、店づくりを進める中で、“この地域のためにできること”への想いも強くなっていったと鬼塚さんは話します。
「台ヶ原宿は、今も古い民家や蔵が点在し、酒蔵や和菓子屋が並ぶ風景が残る一方で、かつては個人商店が立ち並び、もっと活気のある通りでした。今は大型ショッピングモールへ行けば何でも揃う時代ですが、その一方で、文化的な楽しみ方が少なくなっているようにも感じていました。だからこそ、昔の台ヶ原のように、いろんな文化が混ざり合う通りになったらいいなと思っていたんです。」
現在の建物は、信玄餅で知られる金精軒が所有していた元民家。「この通りをもう一度盛り上げたい」という金精軒側の想いとも重なり、現在の場所での出店が決まったといいます。
カカオの香りに包まれながら、ゆっくりとチョコレートを味わう時間。「いとま chocolate & ice cream」には、忙しい日々の中で少し立ち止まり、自分の感覚を取り戻すための尊い時間が流れています。
かつて宿場町として人が行き交った台ヶ原で、いま新たな文化として根づき始めたクラフトチョコレート。その一枚には、作り手の想いと、この土地で過ごす時間そのものが詰まっています。
Article written by VALEM co., ltd.
参考情報
いとま chocolate & ice cream
山梨県北杜市白州町台ヶ原2196
※詳細は下記URLを参照してください。
https://itomachocolate.com/
Instagram:itoma_cafe.shop