SNSで偽情報が広がりやすいのはなぜ?

SNSで偽情報が広がりやすいのはなぜ?

SNSでフェイクニュースなどの偽情報が広まりやすいのはなぜでしょうか?

SNS投稿の大規模な調査結果によると、偽情報は真実の情報よりも約6倍速く拡散することがわかりました。しかも、この拡散を加速させているのはボットではなく、人間でした。私たちの認知的な特性が、偽情報の拡散に深く関わっていたのです。

人の「認知特性」が偽情報を広める

2018年、マサチューセッツ工科大学が科学雑誌サイエンスに発表した研究によると、人の認知特性によって、真実の情報よりも偽情報の方が何倍も速く深く広く拡散されることが分かりました。

それまで偽情報が広まりやすいのは、システムのボットがそのように調整されているためと推測されることもありましたが、それが覆されました。

*出典論文:Vosoughi, S., Roy, D., & Aral, S. (2018). The spread of true and false news online. Science, 359(6380), 1146-1151.

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この研究では、2006年から2017年にかけてTwitter(現 X)上で拡散した約126000件の検証済みニュース、すなわち真偽がはっきりしているニュースを分析し、虚偽の情報と真実の情報がどんな速度で、どれだけ広く深く拡散したかが調べられました。

この論文のFig. 2は興味深い結果となっています。

Fig. 2.A
リレーツイートの回数、すなわちAさんがTwitter(当時)にツイートしてBさんがリツイート(深さ1)、そのBさんのリツイートをCさんがリツイート(深さ2)した深さを調べた結果、真実の情報は深さ10が限界だったのに対し、虚偽の情報は深さ19以上に達していました。つまりSNS上では、真実より虚偽の⽅が社会に深く浸透しやすかったのです。

Fig. 2.B
その情報(ツイート)が何⼈に拡散したかを調べたところ、真実の情報が1,000 ⼈以上に拡散することはまれだったのに対し、虚偽の情報の上位1%は⽇常的に1,000⼈から10万⼈にまで拡散していました。

Fig. 2EとF
真実の情報が1,500 ⼈に到達するまでにかかった時間は、虚偽の情報が同じく1,500 ⼈に届くのにかかった時間の約6倍でした。
また、真実の情報が深さ10(10回のリレーツイート)に達するのにかかった時間は、虚偽の情報が同じく深さ10に達するのにかかった時間の約20倍でした。

そこには、新奇性への反応、恐怖や驚きといった人の認知特性が関わっていると考えられています。また最新の研究では、もっと簡単な理由もあることが分かってきました。

偏見ではなく、怠けているだけ

人が持つ思想や信念、理念をイデオロギーと呼びますが、偽情報を信じてしまう人は、それが自身のイデオロギーに有利なものだったためか?それとも単に考えることを怠っていたためか?という議論がありました。

この問いに答えたのが、アメリカで行われた以下の研究です。

*出典論文:Pennycook, G. & Rand, D. G. (2019). Lazy, not biased: Susceptibility to partisan fake news is better explained by lack of reasoning than by motivated reasoning. Cognition, 188, 39–50.

論文タイトルにある「Lazy, not biased」は「偏見ではなく、怠けているだけ」という意味で、これがこの問いの答えになります。

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著者らはまず、参加者がどれくらい「分析的に考える傾向」があるかをあらかじめ把握しました。これを測るために用いたのはCRT(認知反射テスト)です。CRTは直感的には間違った答えが浮かぶものの、よく考えれば正解がわかる問題を複数答えるテストです。

CRTの有名な例は、「チョコとアメの合計は110円。チョコはアメより100円高い。アメはいくら?」という質問で、直感的には「10円」と答えたくなりますが、これは間違えで、正解は5円です。アメが10円だと、チョコが110円になり、合計120円になってしまいます。

次に、3,446人を対象に、民主党寄り、共和党寄り、あるいは中立的な内容の「本物のニュース」と「偽ニュース」の見出し(Facebookの投稿)を読んでもらい、その正確性を評価してもらいました。

その結果、CRTの得点が高かった人、すなわち分析的に考える傾向が強い人ほど、偽ニュースを「正確ではない」と正当に評価しました。ここで興味深かったのは、そのニュースがたとえ自分の政治的イデオロギーに有利な内容であっても同じ結果だったことです。

CRTの得点が高かった人は、ニュースが民主党寄り、共和党寄り、中立かどうかにかかわらず、本物のニュースと偽ニュースを見分けられ、この傾向は年齢や性別、学歴の影響を差し引いても維持されました。つまり、「分析的に考える傾向がある人」は、自分にとって都合がいい嘘であっても騙されにくかったのです。

逆に、CRTが低い、つまり「直感に頼り、分析的に考えることを怠りがちな人」は、ニュースが民主党寄り、共和党寄り、中立であるかどうかにかかわらず、偽ニュースを信じてしまう傾向にありました。「思考のサボり癖」がSNSの偽ニュースを信じ、拡散する土壌となっていたのです。

二重過程理論と偽情報

人が情報を受け取るとき、「直感」と「推論」のどちらかのタイプで思考している、という理論があります。これを二重過程理論と言います。ノーベル経済学賞を受賞した心理学者ダニエル・カーネマンをはじめ、認知科学の研究者たちが提唱してきました。

直感(タイプ1):直感的で速い思考。無意識に働き、努⼒を必要としない。簡単な計算をする、顔から感情を読み取るなど。進化的な歴史が古く、動物が使う。
推論(タイプ2):熟慮的で遅い思考。意識的で、努⼒が必要。複雑な計算や論理的な判断。進化的な歴史は浅く、⼈間特有。

*出典論⽂:
・Kahneman, Daniel. A perspective on judgment and choice: Mapping bounded rationality.Psychology Press, 2013.
・Stanovich, and West., “Individual differences in reasoning: Implications for the rationalitydebate?”. Behavioral and Brain Sciences , 23 ,5 2000 , 645-665
・Stanovich, Keith E., and Maggie E. Toplak. "Defining features versus incidental correlates ofType 1 and Type 2 processing." Mind & Society 11.1 (2012): 3-13.

偽情報が拡散しやすい背景には、この二重過程理論が関係しています。人間の脳は省エネを好むため、日常の多くの場面では負荷の低いタイプ1が優先的に働きます。SNSのタイムラインを次々とスクロールしているとき、私たちはほぼタイプ1だけで情報を処理しています。日々あふれる膨大な情報に対して、いちいちシステム2を働かせ続けることは、現実的には難しいのです。

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反復による真実の錯覚効果

1977年、認知心理学者Hasherらは、ある主張を繰り返し聞くだけで、その主張の信憑性が高まる現象を発見しました。真実性の錯覚効果(illusory truth effect)と呼ばれています。

先ほど紹介したPennycookらの論文が「深く考えないから騙される」という認知の怠惰に焦点を当てたのに対し、Hasherらの研究は「情報の反復」そのものが私たちの認知を歪めることを示しました。

*出典論文:Hasher, L., Goldstein, D., & Toppino, T. (1977). Frequency and the conference of referential validity. Journal of Verbal Learning and Verbal Behavior, 16, 107–112.

この研究では、政治、スポーツ、芸術などの分野から、140個の「もっともらしいが、真偽がすぐには分からない」文章が用意されました。その半分は真実、もう半分は虚偽です。


「ケンタッキー州はアパラチア⼭脈以⻄で最初に開拓者によって開拓された州である」
「リチウムはすべての⾦属の中で最も軽い」
「⼤腿⾻は⼈体で最も⻑い⾻である」
「カピバラは有袋類の中で最も⼩さい動物である」など

大学生にこれらの文章を読ませ、正しいかどうかを判定させました。重要なのは、期間を空けて複数回実施し、「毎回提示される文章」と「その回だけ提示される文章」を混ぜた点です。

その結果、内容が本当か嘘かに関わらず、「毎回提示される文章」は回を重ねるごとに「正しい」と確信する度合い(妥当性スコア)が有意に上昇したのです。

さらに衝撃的なのは、2015年のFazioらの研究です。この研究では、事前に正しい答えを知っている場合でさえ、繰り返し虚偽の情報に触れると、それを真実だと錯覚してしまうことが示されたのです。

出典論文:Fazio, L. K., Brashier, N. M., Payne, B. K., & Marsh, E. J. (2015). Knowledge does not protect against illusory truth. Journal of Experimental Psychology: General, 144(5), 993–1002.

 

以上、「SNSでフェイクニュースや偽情報が広まりやすいのはなぜか」を学術面から解説しました。

偽情報が信じられ、拡散されやすい背景には、私たち人間の認知特性が深く関わっていました。そうであるなら、個人のリテラシー向上だけでなく、学術的知見に基づいた法整備やプラットフォームの設計がますます求められていると言えそうですね。

written by ヒノキブンコ

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