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共同親権制度導入の法改正とその背景〜『子どもの権利』が優先される社会へ一歩

2024年3月8日、離婚しても子どもの親権を両親に認める共同親権制度を盛り込んだ改正案が閣議決定されました。可決されると早ければ2026年から離婚後の共同親権制度が始まります。

共同親権とは?単独親権とは?

親権とは父母が未成年の子ども(18歳未満)に対して持つ身分上・財産上の権利・義務のことです。子どもの養育、監護、教育、財産管理、面会交流、法定手続きなど、その子の心身の健全な育成のために行使されるものです。

「単独親権」とは離婚後の親権をどちらか一方の親にだけ認めること、「共同親権」とは双方の親に認められることです。

今回の改正案では、離婚する際に「共同親権」か「単独親権」か両親が協議で決め、意見が対立して折り合わない場合は家庭裁判所が判断するとしています。

離婚後の親権〜世界の状況

現在、日本では離婚後は単独親権とすることが法律で決まっています。インドやトルコも離婚後単独親権です。

一方、アメリカ、イタリア、ドイツ、オーストラリア、フランス、フィリピン、フランスなどでは、離婚後共同親権です(*1)。これらの多くで、DVなど裁判所判断がなければ、原則として共同親権になります。アメリカでは州によって異なるものの、離婚後共同監護(日本でいう共同親権に該当)になるケースが多数です。スペインでは原則、離婚後共同親権ですが、父母の協議で単独親権にすることができます(*2)。

*1 アメリカの「監護権」(custody)、イギリスの「親責任」(parental responsibility)、ドイツの「親の配慮」(elterliche Sorge)など、親権に含まれる権力的ニュアンスをなくした言葉を採用する国も多いが、本記事では便宜的にこれらを親権と呼ぶ
*2 出典:「父母の離婚後の子の養育に関する海外法制について」令和2年4月 法務省

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改正案の背景

毎年16万人の子どもが親に会えなくなると言われる日本。離婚後、取り決めた面会交流が果たされず別居親(多くは父親)が子どもに会えなくなるケースが多い状況です。落胆はやがて諦め、日常へと変わり、子どもが本来享受できたはずの愛情、健全な養育の機会は音も立てずに失われています。それが親の一方的都合によって行われている場合、「子どもが親と会う権利」が侵害されていることになります。

むろん、子どもへの暴力・DVがあれば、それは児童福祉法などに違反する違法行為に当たり、行政対応・司法判断の下で子どもは保護され、加害者の自由な面会は制限されることになります。

ハーグ条約〜日本が起こしている国際問題

そんな日本の親権に対する考え方は国際問題も引き起こしています。

海外で国際結婚した夫婦が離婚し、日本人と外国人の間に生まれた子どもを日本人の親が相手の許可なく日本に帰国させ、一方的に親から離して子どもとの面会交流を果たさないケースが複数発生しています。これが国際条約に違反するとして、EUやオーストラリア政府など複数の国が、日本政府に対しハーグ条約(国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約)を遵守するよう求めています(*1、*2)。

ハーグ条約とは、国境を越えて子どもの連れ去りや強制的な引き止めの事件が起こったとき、子どもを元の居住国に返還する国際的な取り決めで、日本はこの条約に加盟しています。

現在、外務省は「ハーグ条約(国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約)|子を連れての国際的な移動に関する注意点」というページを設け、国境を越えて親権者の同意なく子どもを不法に連れ去るとハーグ条約に基づいて子は原則として元の居住国に戻されること、また、居住国で連れ去った親が刑事訴追を受ける可能性があることを、日本人に向けて注意喚起しています。

*1 出典「日本における国際的な子の連れ去り」Wikipedia
*2 出典「子どもの親権をめぐる問題について」在バルセロナ日本国総領事館

そのような背景も、今回の法改正の動きを後押ししました。

子どもの権利条約〜日本は守ってない⁉

子どもの権利条約(児童の権利に関する条約)とは、世界中のすべての子どもたちがもつ人権を定めた国際条約です。1989年国連総会において採択され、日本はこの条約を守ることを約束しています。

この条約の第9条には、「子どもが親と会う権利」について以下のように定めています。

第9条
締約国は、児童がその父母の意思に反してその父母から分離されないことを確保する。ただし、権限のある当局が司法の審査に従うことを条件として適用のある法律及び手続に従いその分離が児童の最善の利益のために必要であると決定する場合はこの限りでない。

出典:子どもの権利条約(日本ユニセフ協会)

外務省のHPにも、子ども向けに以下のように解説されています。

こどもには、親(おや)と引(ひき)離はなされない権(けん)利(り)があります。こどもにもっともよいという理(り)由(ゆう)から引(ひき)離(はな)されることも認(みと)められますが、その場(ば)合(あい)は、親(おや)と会(あ)ったり連(れん)絡(らく)したりすることができます。

出典:子どもの権利条約(法務省)

つまり、離婚後でも子どもが親に会う権利があり、子どもが親に会えなくなるのは、DV・虐待など司法が判断した場合に限られる、というのが子どもの権利条約です。

これに対して日本では、そのような司法判断はなく、離婚後、特に親権を持たない別居親が子どもに会えなくなるケースが頻発しています。子どもがまだ小さく、自分で意思表示ができない段階で、別居親と会う機会が絶たれるケースも多いようです。

共同親権とDV・虐待〜「急迫の事情」があれば単独親権

今回の共同親権導入をめぐっては、離婚しても子どもへの虐待が続く恐れがある、子どもがDV被害から待避しづらくなるとの懸念もあります。

これについて改正案では、DVや虐待からの避難など『急迫の事情』があれば、単独で親権を行使できる事項が盛り込まれています。また、関係NPO団体も、児童虐待のおそれがある親に親権が認められないよう法整備を求めています。

共同親権がDV被害を助長しない仕組みづくり、家庭裁判所が妥当な判断を行う体勢づくりが今度の論点になります。

医療行為に対する危惧もあります。共同親権となった場合、両親の合意が必要となるため、同意を得るのに時間がかかって必要な医療行為が遅れる恐れがあるためです。これも「急迫の事情」に当たりますが、その判断基準や判断者については明確にし迅速な判断ができるようにする必要があります。

それでも共同親権を導入するわけは?

共同親権導入には上記のように賛否ある状況ですが、共同親権は⼦どもにとって優位性があることも研究で分かっています(*1)。

  • ・共同身上監護の子どもの方が単独監護の子どもより、感情的、行動的、心理的幸福の尺度でより良い結果を示し、身体的健康状態も良い。
  • ・共同身上監護の方が父親や母親との関係が良好で、両親間の対立が激しい場合でもその利点は持続した。
  • ・別居父宅への宿泊日数が長いほど、子は父と良好な関係を保っている。
  • ・子どもは2 つの家は面倒だが両親と親密な関係を維持するための価値はあると答えている。
  • ・(裁判官への調査) インディアナ州での 1998 年と 2011 年の調査では、あらゆる年代の子どもに共同監護がふさわしいと考える割合が増加した。 87%の裁判官が、両親が合意していなくとも共同法的監護を付与したいと答えている。
  • ・多くの子は別居親と頻繁に会いたいと思っており、 交流の頻度と親の紛争状態が、子の幸福感と関連している。高葛藤両親のカウンセリング後に、共同身上監護の子たちは単独監護の子たちよりストレス、不安、問題行動が少なくなっている。あらゆる年代で共同身上監護は子にとって良い結果を得ている。
  • ・父の暴力がある場合、子どもと良好な関係は築けない。

註)
アメリカの 「共同監護」には、「共同身上監護」と「共同法的監護」が含まれる。共同法的監護(legal custody)とは「子の健康、福祉、教育にまつわる決定などの権利・責任」、共同身上監護(physical custody)とは「頻繁かつ相当な期間にわたり、会って遊んだり出かけたりするなど交流して時間を共有する権利・責任」

また、2018年の研究(*2)によると、世界各国の60件の査読のある学術雑誌の研究を集計した結果、60件中48件の研究は、共同親権の方が単独親権より、子どもに全ての項目ないし多くの項目で「より良かった(better)」と報告されていたことが明らかになっています。

具体的には、以下のとおりとなっています。

  • ・34件の研究で共同親権の子どもは単独親権の子どもより全指標で「より良かった」
  • ・14件の研究で共同親権の子どもはいくつかの指標で「より良かった」(他の指標では同等)
  • ・6つの研究でどちらもどの指標においても有意差がなかった
  • ・6つの研究で1つの指標で単独親権の方が「よい良かった」(それ以外の指標では同等か悪かった)
  • ・単独親権の子どもは単独親権の子どもより全指標で「より良かった」は0件という結果でした。

つまり、まとめると以下の図になります。

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ここで言う「より良かった(better)」とは、

  • 1)学業的・認知的成果(成績、授業出席、認知テストなど)
  • 2)情緒的または心理的成果(抑うつ、不安、生活への不満、低い自尊心など)
  • 3)行動上問題(家庭や学校での非行、多動、10代の薬物、ニコチン、アルコールの使用など)
  • 4)全般的な身体的健康またはストレスに関連した身体的問題(睡眠、消化器系の問題、頭痛など)
  • 5)親子関係の質(親とのコミュニケーションや親との距離感など)

などの項目で、良い結果を示したということになります(研究事例によって項目数や内容は異なります)。

この研究には6万人以上の事例(1件)や4万人以上の事例(2件)も含まれるので、有意差を統計的に見いだすには十分な量と言えそうです。

また、この研究では、家庭の所得や両親の不仲の度合いとは無関係に、共同親権の方が単独親権よりも子どもの心身によい結果がもたらされることも報告されています。

  • 出典
  • *1)
    アメリカ合衆国の共同監護について
  • ・Nielsen, Linda. "Shared physical custody: Summary of 40 studies on outcomes for children." Journal of Divorce & Remarriage 55.8 (2014): 613-635.
  • ・Artis, Julie E., and Andrew V. Krebs. "Family law and social change: Judicial views of joint custody, 1998-2011." Law & Social Inquiry 40.3 (2015): 723-745.
  • *2)
    ・Nielsen, Linda. "Joint versus sole physical custody: Children's outcomes independent of parent-child relationships, income, and conflict in 60 studies." Journal of divorce & remarriage 59.4 (2018): 247-281.
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写真はイメージです

養育費を払ってもらえない

別居親が養育費を払わないケースも今回の法改正で減りそうです。改正案では、離婚時に取り決めなくても、最低限の養育費を請求できる「法定養育費」が盛り込まれる予定だからです。

すでに離婚した別居親も共同親権が適応できる?

今回の改正法施行より以前に離婚、単独親権となった場合でも、裁判所へ申し立てて認められれば、共同親権に変更できるよう盛り込まれる予定です。





以上、共同親権制度導入の法改正とその背景についてでした。

日本では後回しにされがちな『子どもの権利』。離婚にはさまざまな事情がありますが、親の事情は子どもには関係ありません。"離婚後も変わらずそそがれる親の愛情" が子どもの健全な養育に重要な役割を果たすなら、それは社会にとって大きな意味を持ちます。子どもたちは10年後、20年後の社会を担う存在だからです。

Article written by ヒノキブンコ

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