非認知能力とは?幼児期の教育が40歳で優位な差を生む⁉子どもがより豊かな⼈⽣を過ごすためにパパ、ママが知っておきたいこと
非認知能力って最近よく聞く
子どもが将来豊かな人生を過ごすために大切となる実地的な能力を非認知能力と呼ぶのよ。試験の点数のように数値化しづらいの
世界では今、幼児教育や子育てシーンで新しい概念が生まれつつあります。それは非認知能力。
日本ではまだそれほど馴染みのない言葉ですが、海外では幼児期教育に取り入れられています。
ここでは、「子育て中のパパ、ママ」に向けて、非認知能力を解説します。
- この記事の目次
- 非認知能力とは
- 非認知能力の科学的エビデンス〜幼児期の教育が40歳で優位な差を生んだ
- 非認知能力はなぜ差を生んだか?理由はIQの差ではなかった
- 非認知能力はどう身につけられるか?
- 日本で非認知能力はどのように導入されているか?
非認知能力とは
非認知能力(英語ではnon-cognitive skills)とは、IQや学力テスト、偏差値などのように点数や指標などで明確に認知できるものではないけど、子どもの将来や人生を豊かにする一連の能力のことです。
一口に定義できるものではないのですが、たとえば、やり抜く力、目標に向かって頑張る力、自制・自律性、自己肯定感、他者へ配慮、コミュニケーション能力、論理的な思考力などが該当します。
論文によると、論文によると、以下の能力が定義されています。
表1
以下の論文に基づいて、表作成。
Gutman, L. M., & Schoon, I. (2013). The impact of non-cognitive skills on outcomes for young people. Education Endowment Foundation, 59(22.2), 2019.
Motivation
西田ら「非認知能力に関する研究の動向と課題」東京大学大学院教育研究科紀要 vol58 2018 p33
また、 幼児教育で著名な東京大学名誉教授の汐見稔幸氏は、非認知能力を魚捕りで例え、罠をひたすら作り続ける集中力、罠を改善したり罠を仕掛けるポイントを考える直感力、魚が取れなくてもあきらめない忍耐力、失敗してもまあいいかと思える楽天性、友達と協力する力、間違ったことをしたら素直に謝ることができる正直さ、これらが非認知能力であると述べています。
出典:汐見稔幸. こども・保育・人間 (Gakken保育Books) (2018)
非認知能力の科学的エビデンス〜幼児期の教育が40歳で優位な差を生んだ
では、この非認知能力が子どもの人生をどのように豊かにするのでしょうか。
それを説明するためには、「ペリー就学前教育プログラム(ペリー・プレスクール・プロジェクト)」が好例です。これは何年もかけて行われた社会的調査で、非認知能力という概念が見出されるきっかけとなったものです。
ペリー就学前教育プログラムは、経済的余裕がなく幼児教育を受けさせられない貧困世帯の3~4歳の子ども123人を対象に、その約半分に、週3回、午前中に毎日2.5時間、教室で授業を受けさせ、週に1度教師が家庭訪問し90分間の指導を行いました。授業を担当する先生は修士号を持つ専門家に限定し、読み書きや音楽などを教えました。これを2年間続けました。
そして、就学前教育プログラムに通った子どもと通わなかった子どもで、その後の彼らの生活や人生にどんな違いが生じるかを、実に約40年にわたり追跡調査しました。
すると、就学前教育プログラムの教育を受けた子どもと受けなかった子どもで、犯罪率、学校中退、留年率、雇用、麻薬使用、大学入学、就職に優位な差が認められました。
つまり、就学前(乳幼児や保育園、幼稚園の時期)に教育を受けることで、その子が大人になってからの、雇用形態や所得、学歴、仕事ぶりや社会的能力に優位な差が生まれることが分かりました(Heckman and Scheinkman, 1987、Heckman and Masterov, 2007など)。
以下がそのデータの一部です(図1)。これは40歳の時点で両者のグループを比較した結果です。幼児期に教育を受けた場合、大人になってから、月給や持ち家率に有意な違いがあることが分かります。
図1 40歳時点でのペリー就学前教育プログラムの効果
出典:James J. Heckman and Dimitriy V.Masterov. "The Productivity Argument for Investing in Young Children.
(データを元に筆者が作成)
非認知能力はなぜ差を生んだか?理由はIQの差ではなかった
さて、ここで一つの疑問が生じます。
前記の年収や生活の豊かさの差が出たのは、「就学前教育プログラムを受けてIQが上がったからでしょ?」という疑問です。
しかし、意外なことに、IQはこの就学前プロジェクトを受けなかった人たちと10歳ごろには差はなくなっていたのです(図2)。
図2 ペリ就学前教育プログラムのIQへの影響
出典:James J. Heckman and Dimitriy V.Masterov. "The Productivity Argument for Investing in Young Children.
(データを元に筆者が作成)
グラフからはたしかに4、5歳で顕著に表れていたIQの差は、10歳でなくなっているのが分かります。
にもかかわらず、大人になってからの年収や生活の豊かさに優位差があった。ということは、『IQでは計れない別の後天的な能力の影響があった』ということになります。
のちにノーベル経済学賞を受賞することになるヘックマンらは、この結果や他の研究から、「IQや学力試験などでは計測できない能力」が人生の成功や豊かさに影響していることを報告しています。
そのような「認知できない能力」は非認知能力と呼ばれるようになり、それが具体的にはどのような能力であるのかについて、海外の研究者や教育関係者が議論してきました。
その成果が、冒頭に挙げた能力なのです。
余談ですが、筆者は非認知能力のことを知り、重力レンズのことを連想しました。重力レンズとは光が重力などで曲がる現象で、一般相対性理論の正当性を証明するものとして知られています。重力レンズは一般相対性理論を証明しましたが、ペリー就学前教育プログラムは非認知能力の存在を証明しました。
図3 非認知能力の影響のイメージ
非認知能力はどう身につけられるか?
では、非認知能力はどのようにすれば、身に付けることができるか。パパ、ママも気になるところです。
上記のペリー就学前教育プログラムのように、幼児期の環境や教育が重要であることが分かっています。
非認知能力を子どもに身につけさせる一例としては、以下があります。
1. 子どもが安心できる環境を作る。
2. 子どもが自分から興味を持って観察したり調べたりする時間を邪魔せず、そっとサポートする。
3. 本人が何かをやり遂げたり、成功したり、失敗したら、共感する。
「子どもが自ら置かれた環境で自らが身につけていく」、「子どもが主体的に行う遊びで育まれる」という点で専門家の意見は一致しています。 実際に幼稚園で、子どもが自発的に考えて、遊ぶ環境を作っている園も少なくありません。それにより、子どもの粘り強さややる気、工夫する気持ちが培われます。
また、非認知能力が「自然遊び」から得られる要素が多いことは専門家も認めるところです。
保育園、幼稚園、こども園の砂場や遊具、公園の木や川は非認知能力を培うという意味で役割を果たしています。
昔から、パパ、ママが子どもを公園に連れて行くのは、本能的に子どもの資質を育もうとしているからかもしれませんね。公園で何か面白いものを見つけてほしい、季節ごとに変わる匂いや生き物の気配を肌で感じてほしい...そんなふうに、親は本能的に「非認知能力なるもの」を直感しているのかもしれませんね。
また、運動会や催し、伝統行事も子どもにとっては探求心、行動力、直感、協力などあらゆる能力が求められる場なので、非認知能力を培う大切な場としての役割を果たしてきたかもしれません。
日本で非認知能力はどのように導入されているか?
日本ではまだそれほど非認知能力は浸透していません。教育関係者でも非認知能力について詳しく知る人は少ないのが現状です。
非認知能力を意識した子育てをいち早く始めたいママやパパは、まずはネットや関連の書籍などで詳しく調べてみるといいと思います。
非認知能力が自然遊びから得られる部分が多い以上、パパやママがお子さま遊びをうまくサポートしてあげることが、子どもが非認知能力を身につけていく上で大事なファクターです。
以上、非認知能力についての解説でした。
Article written by ヒノキブンコ