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久保田一竹美術館 (ITCHIKU KUBOTA OF MUSEUM)

久保田一竹美術館の庭園

久保田一竹と辻が花染め

 今から遡ること数百年。室町時代から江戸時代初期にかけて「辻が花染め」という染め物が流行したんだそうです。おそらく室町時代の流行に敏感なファッショニスタたちがお召しになったと推測されますが、その栄華は京都の特産品であり着物の染め方においてポピュラーな存在として現在でも広く知られる「友禅染め」の人気に押されて衰退し、消えていったといいます。そんな「辻が花染め」に魅了され、人生を捧げた人物が久保田一竹、その人です。

 もともと友禅染めを生業としており、辻が花染めの着物と出逢ったのが20歳のころ。紆余曲折を経て、自らの生涯を辻が花に注ぐと決意します。独自に研究と試行錯誤を重ね、幻の技法を復活し、現代に息づく技法として作品を世に披露した時、一竹は60歳。辻が花染めとの出逢いからおよそ40年という歳月の果てに辿り着いた染めの美しさは、日本のみならず海を渡り欧米諸国を魅了しました。その文化的価値が広く認められ、ワシントンD.C.にあるスミソニアン国立自然史博物館において1996年、唯一、存命する人物の個展として開かれるほどになりました。
 久保田一竹(久保田一竹は2003年に逝去、享年85歳)が生前より手掛けた壮大なるプロジェクト「光響」80連作。この連作は、荘厳なる自然界の四季と宇宙をテーマとし、80にも及ぶ作品をもって初めて完成するという大作です。1つの作品を染め上げて、仕上げるまでに2年はかかるというのですから、最初から自身のみで作品を完結させるつもりはなく、次世代にその技と文化を伝えるべくしての構想だったのでしょう。

 80連作「光響」は今なお、一竹工房の弟子たちに遺志が受け継がれ、制作され続けています。久保田一竹は、文献も少なく、存在すら幻と言われていました。失われた技法を模倣しただけでなく、化学染料やビニールといった現代的な要素を用いて、古来の染色技術と融合させ、長年の探求の賜物である「一竹辻が花」としてみごとに新たな花を咲かせたのです。

久保田一竹美術館_辻が花染め

幽玄なる富士の世界

 久保田一竹が目指したもう1つの夢が、自身の作品を飾る美術館の建設です。作品は樹齢1000年を超えるというヒバの木をピラミッド型に組んで造られた本館に展示されています。まるで能の舞台のような本館中心部には、天から太陽の光が差し、その周囲を囲むように一竹辻が花染めの想像を絶する美しさの作品群が神々しく輝きを放っています。作品の細やかな柄や染めを見れば、作品一つにどれほど膨大な手間と時間がかけられているか容易に想像がつきます。久保田一竹が己の辻が花染めに注いだ苛烈な情熱を体感することができるでしょう。

 美術館の建物の造形は、かの建築家アントニオ・ガウディーにオマージュしたものとなっており、スペインのグエル公園を彷彿とさせる。椅子やテーブル、置物、細部に至る調度品の数々も久保田一竹自身が収集し、インドやアフリカなど、世界中の国々からセレクトされたものです。美術館全体の世界観を壊すことなく、久保田一竹美術館独特の無国籍感がみごとに調和しているのを見ると、久保田一竹のグローバルな視野とセンスの非凡さがうかがえます。
 世界文化遺産に登録されたばかりの富士山を望むこの富士河口湖町に美術館を建てたのも、久保田一竹が先見の明のある人物であったからと感じてしまいます。なぜならば、久保田一竹は作品にも多く富士山をモチーフとして描いているうえ、ピラミッド型の本館は富士山をイメージしたもの。一竹辻が花を紐解くコアの一つとして富士山は欠かせないファクターなのです。富士山が世界文化遺産に登録された今、富士山に登る人々はもちろん、富士河口湖町を訪れる観光客もさらに増加することが予想されます。

 この久保田一竹美術館に立ち寄れば、「辻が花染め」というファインダーを通してまた違った側面の富士山の魅力、姿を拝むことができるでしょう。移りゆく景色によって表情を変える富士山を眺め、その周囲の自然の息づかいを感じながら時間を忘れて過ごすことのできる久保田一竹美術館。特に夏から秋にかけては景色、気候、ともに足を運ぶのにベストシーズンです。久保田一竹が心血を注ぎ表現し、この地に遺した幽玄な世界観をぜひ体感してほしいです。

久保田一竹美術館_新館

 ガウディ建築からインスパイアされた新館は手すりや装飾に至るまで、造形にこだわりが感じられます。
 建物が独特の形状と質感を醸しているのは沖縄の琉球石灰岩によるもの。沖縄が好きな久保田一竹のこだわりです。

久保田一竹美術館_ガラス工芸(蜻蛉玉)

久保田一竹が幼い日に魅了されたという、紀元前より続くガラス工芸品蜻蛉玉(とんぼだま)。生涯をかけ、世界中から集められた美しき蜻蛉玉コレクションは新館2階の蜻蛉玉特別展示室に展示されています。

天気が良い日は絶景の富士山を臨むことが出来ます。

久保田一竹美術館_茶房「一竹庵」

 本館の作品展示の奧にある茶房「一竹庵」では、抹茶と和菓子のセットをいただく事ができます。
 目線と窓の外の池が同じ高さに見える設計になっていて、見る者の心を落ち着かせてくれます。

久保田一竹美術館_内観

久保田一竹美術館_門

Article written by VALEM co., ltd.

久保田一竹美術館
ITCHIKU KUBOTA ART MUSEUM
〒401-0304 山梨県南都留郡富士河口湖町河口2255
TEL 0555-76-8811
※ここから外部へリンクします。開館時間・料金などは下記リンクを参照してください。
http://www.itchiku-museum.com/

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