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James Barnes Vol.1 (Special concert by Bernes)

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世界的作曲家が来県!山梨県内高校生との熱き共演が実現。

 平成29年6月25日、コラニー文化ホール大ホールにて吹奏楽バンドのスペシャルコンサートが開催されました。この折、山梨にやって来たのは、長きに渡って素晴らしい演奏家を輩出していることでも有名な国内屈指の音楽専門学校、尚美ミュージックカレッジ専門学校のバンド「尚美ウインドオーケストラ」です。約2,000席の大ホールは満員御礼。現役在学生の卓越した演奏を一目観ようと、県内外から多くの吹奏楽ファンたちが1つの「スペシャルな時間」のために集まりました。

 それもそのはず。同校の客員教授であり日本の吹奏楽文化を牽引してきた小澤俊朗氏が直接指揮を振る第1部。そして音楽界では知らぬ者はいないアメリカが産んだ巨匠、作曲家ジェイムズ・バーンズ(James Barnes)氏が自作品でタクトを振るプレミアム公演となったからです。この機会を逃してなるものか!ということで、取材班がリハーサルから密着。バーンズ氏の独占インタビューもVol.2に掲載です。

 今、当コラムを読んでいるあなたは、「吹奏楽」と「オーケストラ」を一緒のものだと考えていた、という方も少なくないはずです。オーケストラは弦楽器・管楽器・打楽器で構成されていますが、それに対して吹奏楽は管楽器と打楽器のみで構成されているので、基本的に弦楽器はバンドには含まれません。
 実は、この日本は世界的に見ても吹奏楽文化が非常に盛んで、かつ優れたプレイヤーを多く輩出しているという事実はご存知でしたか?日本の吹奏楽人口はなんと約120万人。学生から大人まで、ここまで多くの人が愛し愛され続ける文化はなかなか無いでしょう。
 イメージしてみてください。学生時代、放課後の校内に響き渡っていたあの音色は、今も日本中で鳴り続けているのです。

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貴重なリハーサル風景

 開場すると同時に、待ち焦がれた瞬間を出来るだけ良い場所で観ようと多くの人が席へ急ぎます。なかでも学生が多く、目を輝かせて配られたパンフレットに集中しています。その大半は、普段は吹奏楽部に所属している子供たちなのでしょう。このホールに居る人間が何かしらの楽器を演奏出来るのか...と考えると凄いことです。同会場でも古くから数え切れないジャンルの音楽が演奏されて来ましたが、スマホでYouTubeなどを観るのではなく、今でもこうして老若男女が1つのホールで1つの同じ音楽を生で聴く、というのは素晴らしいものです。皆さんもご存知ですよね。この時代、生演奏がどれだけ価値があることなのかを。

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 小澤俊朗氏指揮による第1部は「春の猟犬」(A.リード 作)によって華々しくスタート。本年の吹奏楽コンクールの課題曲「スケルツァンド」(江原 大介 作)、「マーチ・シャイニング・ロード」(木内 涼 作)に続き、映画「ゴッドファーザーⅡ」より「愛は誰の手に」(N.ロータ 作 / 岩井 直溥 編)と演奏。今回のスペシャルゲストプレイヤーの1人の砂川 隆丈氏を独奏に迎え、煌びやかで、透明度の高いキラキラしたまさに"尚美サウンド"が、ホール全体を包み込んでいきます。60名ほどの大所帯のバンドであることが信じられないほど、澄み切った響きです。

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 スパニッシュなダンス音楽の名曲「イスパニア・カーニ~3本のトランペットとバンドのための~」(P.マルキナ 作/ 真島俊夫 編)では、アグレッシヴに展開していく曲構成に、甘美で絶妙なトーンのトランペットが色を付けます。ここでは、トランペットソロに地元山梨の高校生プレーヤーも参加したこともあり、観覧に来ている学生たちも大きく刺激を受けていたでしょう。
 「もののけ姫セレクション」と銘打れた「アシタカせっ記」「TA・TA・RI・GAMI」「アシタカとサン」(久石 譲 作/ 森田 一浩 編)の3曲で第1部の幕は降ろされます。均整の取れたアンサンブル、と表現するだけでは物足りません。幾重にも重なる透明のカーテンが、尚美バンドのほとばしる情熱によってキラキラと輝いている...そんな印象を受けました。

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 休憩後はいよいよお待ちかね。J.バーンズ氏が登場。ステージインと共に万雷の拍手で迎えられます。いやはや、入って来ただけで巨匠のその風格たるや。「あのバーンズが山梨に居る...。」一瞬で空気が変わります。拍手が鳴り止んだ後、バーンズ氏が指揮台に立ち1拍目の指揮を振り始めるその瞬間まで、会場はこの日一番の静けさを生み出しました。客席の緊張からくるものなのか。それとも大きな期待から生まれる集中の静寂なのか。一発目のシンバルと共に堂々と解き放たれた1小節だけで、その"約束された期待感"は早くも感動に変わります。アメリカ空軍バンドの創立周50年を記念して書き下ろされた「交響的序曲」は、まさにアメリカ然としたダイナミックなメロディが展開されるとても気持ちの良い作品です。

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 吹奏楽に少しでも触れて来た方ならまず知らない人は居ない一連のテーマが終わった後、山梨県内の吹奏楽部で選抜された学生バンダ(※)がステージの上手下手から登場。総勢80名ほどにパワーアップした圧倒的なスケール感で、クライマックスまで走り抜けます。観客席を向いて大きく指揮棒を振り上げるバーンズ氏。第2部1曲目からすでに大団円の様相で、客席は感激の渦に。この光景は今でも忘れることが出来ません。まさに会場が一つになった瞬間でした。

(※バンダ=オーケストラなどで、主となる本来の編成とは別に、多くは離れた位置で「別働隊」として演奏する小規模のアンサンブル。ステージ袖や、ステージのせり出しで演奏することも多い)

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 2曲目の「アリオーソとプレスト」では、2人目のスペシャルゲスト、サックス奏者の原 博巳氏が登場。同校出身かつ東京藝術大の音楽学部別科を卒業し、2002年にはアドルフ・サックス国際コンクールに日本人で初となる1位入賞を果たしたことでも知られるプレーヤーです。スマートで長身の彼が巧みに導き出すヘンリー・セルマーのサウンドスケープには、誰もが心を奪われたことでしょう。早いパッセージが際立つ同曲のサックスソロには、卓越した技術は勿論のこと高い表現力が要求されます。クラリネットやオーボエかとも思えるほどの柔らかくも透き通った音色。まさに世界基準の存在感が其処にありました。

 このスペシャルコンサートのラストを飾る「交響曲 第3番」から第3楽章、第4楽章。スタートするや否や、前曲までの煌びやかな空気感とは打って変わり、重く、悲壮感を含んだ霧が立ち込める会場。
 というのも、この作品は1994年の6月頃に完成されたとされていますが、その当時バーンズ氏は、なんと愛娘のナタリーを生後僅か半年で亡くすという悲劇に見舞われています。第3楽章は「for Natalie(ナタリーのために)」と題されており、「彼女が大きくなったらきっとこういう事を話すだろう、こういった景色を観るだろう」と、父と作家の目線で描かれています。父娘の会話の様に展開されていく楽曲構成。第4楽章のフィナーレは一転して美しいメロディとハーモニーによって埋め尽くされいくのですが、バーンズ氏が当時抱えていた心の内面をそのまま伝え聴いている様です。前を向く事の美しさと、強さ。生きるという喜び。人はあまりの感動を目の当たりにすると、涙腺への刺激を通り越し静止してしまうという話を聞くことがありますが、奇しくも筆者はそれを地方都市山梨の音楽ホールで経験することとなりました。

 今回の特別演奏会のために来県した尚美ミュージックカレッジの学生たちは、自身のミュージックキャリアの充実を志し365日音楽に向き合い研鑽を積んでいます。ここ山梨でも、小学校~大学で吹奏楽に親しみ、人によっては音楽をそのまま続け、色々な形で音楽と向き合っている人が大勢居るのです。あなたもきっとそういう方を周りに知っているはず。今回の様なスペシャルな公演は滅多に無いとしても、年間に渡って多数の団体が至る所で演奏会を開催しています。必ず一回は足を運んだ方が良い、とまでは言いません。しかし、テレビやパソコン、スマホの中には無い感動が其処にはあるということは書いておきます。観にいくのは演奏だけでは無いのです。心から感動するあなた自身に会いにいく。それが生の芸術が私たちにもたらしてくれる予期せぬ素晴らしさのひとつです。

 「凄いものを観てしまった...」そう全員の顔に書いてあるホール出口。たまに出会うその光景は、いつ見ても心踊ります。

Article written by New Attitude

 Vol.2 : バーンズ氏の独占インタビューへ

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